「御社の財産とは何か、と聞かれればスタッフだ、と即答します。皆がいるからこそこの会社は成り立つ」
お供え用の仏花や榊の束を加工している「アヤカトレーディング」の事務所に入ると、和やかで明るい雰囲気がすぐに伝わってくる。
花や緑は見る者に癒しの効果を与えるが、スタッフ全員が年中それを目にしているから…というわけでもなさそうだ。スタッフが楽しく、効率よく、精力的に仕事をこなす秘密とはー女優の大西結花さんが取材した。
大西 社長が独立を決意されたきっかけをお聞かせ下さい。
戸田 事情があって勤めていた会社を辞める事になり、得意先に退職の挨拶に伺ったのです。すると、そのうちの一社の社長が「辞めるんだったら、うちの下請けをしてくれないか。」と声をかけて下さいました。それまで起業したいとの気持ちは持っていなかったのですが、お世話になった方だけにお役に立ちたいという気持ちが生じ、現在の仕事を始めるに至ったのです。
大西 取引先の社長も、以前から戸田社長の仕事ぶりを気に入っていらしたのでしょうね。当初はお一人で?
戸田 いえ、当時この仕事については全くの素人であった妻と、前職で共に働いていたパートさん数名が手伝ってくれました。はじめは少し無理してたくさんの仕事を手掛けましたから、夜中の2時~3時くらいまでかかることもしばしばありましてね。妻はもちろんですが、身内でもない、それぞれに家庭もある主婦の方々が、明け方まで共に働いてくれたことは、本当にうれしかったですね。
大西 きっと戸田社長には人を惹き付ける魅力がおありなんですね。
戸田 妻に言わせれば「かわいそうで見ていられなかっただけ」らしいんですけど(笑)
大西 (笑)元々奥様は社長の独立に賛成なさっていたのですか。
戸田 妻には何も話さずにいきなり事業を興しましたので、賛成も反対も無く、ただ驚いていましたね。おまけに貯蓄もなかったものですから(笑)、この作業場を借りる為、自動車を売って敷金に充てた記憶があります。仕事のことで余計な心配をかけたくなかったので、あえて相談しなかったんですが、結果的には様々な心配をさせてしまいまいした(笑)。
大西 現在、スタッフの方は何名ほどいらっしゃるのでしょう。
戸田 30名ほどですね。「企業はひとなり」という言葉をよく耳にしますが、本当にそうだと思います。「アヤカトレーディング」の財産は何か?と問われれば、間違いなく「スタッフです!」と即答しますよ。スタッフがいなければこの会社は回っていきません。深い感謝の気持ちを持つと同時に、この人たちを大切にしていかなければ、との思い出いっぱいです。
大西 そうした気持ちがスタッフの方にも伝わっているからこそ、皆さんのモチベーションも高いのでしょう。
戸田 スタッフとは密にコミュニケーションをとるよう心がけており、そのためか、職場の雰囲気はいつもアットホームで明るいんですよ。
大西 最後に、社長の夢を。
戸田 障害があるなどの理由で、働きたくても働く場に恵まれない方がいます。そうした方を積極的に雇用し、少しでも社会に貢献できればと思っています。また、今いるスタッフが、「働きたい」と思っている限り働いてもらえるように仕事量を確保し、職場環境を整えていくことも私の役目だと思っています。そうすることが、これまでの恩返しになるのではないかと。
大西 これからも頑張って下さい。
大西さんのコメント
「和やかな職場の雰囲気から安定した経営状態がうかがえます」
「記念撮影しながら、スタッフの方々とも言葉を交わしましたが、とにかく皆さん元気で明るいですね。スタッフの中には『元気をもらうためにこの職場に来る』と言う方もおられるそうですが、それも分かります。私も元気パワーにあてられたのか、心晴れやかに帰途につく事ができました。」
若い人にはあまり馴染みがないが、日本には古来より毎月1日と15日に仏花を仏壇に、榊を神棚に備える習慣がある。仏花とは輪菊・小菊・洋菊などを中心に、季節の花を加えて作る小さな花束のこと。榊はツバキに似た常緑樹で、この小枝を何本か束ねて神棚に飾る。こうした利用のため、茎を切りそろえたり、数本の花を束ねたりするのが「アヤカトレーディング」の業務内容だ。
商売柄、お盆や年末、お彼岸の直前は繁忙期で全員が黙々と作業にあたる。だが、それ以外の日は和気あいあいと作業をしているのだという。
パートの多くは主婦だ。そのため、「子どもが熱を出した」「急に出かける用事ができた」など、不測の事態から休みを願い出るスタッフも少なく無い。そのような時、同社では他のスタッフが欠員をカバーし、全体の作業量に支障をきたさないようにしている。抜群のチームワークでスタッフ同士が支え合っているからこそ、戸田社長もある程度スタッフの出退勤に融通を聞かす事ができる。それがさらにスタッフの士気を高めることにつながっているのだ。
取材/2007年11月